6.腰痛・頸肩腕障害

Q.腰痛・頸肩腕障害の事例を教えてください。

A. 腰痛・頸肩腕障害は障害児学校の職業病です。神障教組では2005年〜2006年にかけて、職場調査を行いました。身のまわりの事例を、職場での対策や予防のための参考にしてください。

【肢体不自由課程で】

事例1車イスの乗せ降ろしで腰に負担蓄積。劇発表で悪化。 → 腰に強い痛み〜椎間板ヘルニア〜

    肢体不自由養護学校で、全介助が必要な訪問籍の児童の担任となった。ベッド型の車いすで、地上高は50センチ程度のため、乗せ降ろしの度にかなり腰に負担がかかった。学校の文化祭で劇に出演した時に、教室での乗せ降ろしを含め、劇の中でも場面ごとの乗せ降ろしが連続し、腰にかなりの負担がかかった。終了後、腰に強い痛みが走り、動けなくなり、同僚の車で帰宅。当日は日曜日だったため、翌日に受診。椎間板ヘルニアとの診断で、1ヶ月休むようにとの指示を受けた。臨任のため、療休は10日まで。結局2週間ほど休み、勤務についた。

事例2日々の介助の蓄積で腰痛に。運動会の練習で悪化。 → 腰の痛み〜急性腰痛症〜

    養護学校初めてにもかかわらず、肢体不自由児の対応、抱え方、車椅子の扱い方、等何も話がないままに勤務が始まり、中学部3年生の担当となった。早々に5月半ば頃より腰が痛くなり、土日の休養で回復する・・・、の繰り返しだった。翌年5月後半、中学部1年の担当になったが、運動会の練習等で車椅子を押して往復するうちに悪化したようで、6月初め、運動会が終わった日、入浴中に急性腰痛症になってしまった。その後もまた、1回急性腰痛症になってしまい、今では気をつけてはいても、日常のちょっとした動きの中で、すぐ痛めてしまうようになってしまった。

☆事例3日々の介助で疲れが蓄積。車いすからの抱き下ろしで。 → 「ぎっくり腰」《公務災害認定》

   肢体不自由の養護学校で全介助が必要な児童の担任となった。緊張が低いこと、成長期で体重が増える時期でもあった。体重は24kg〜30kgになり、毎日の介助で負担と疲れを感じていた。1年近くたった頃、車イスから抱き下ろし、フロアに座らせたところ、自分が立ち上がれなくなり、何とか車で帰宅、ぎっくり腰で3〜4日休み、通院。公務災害で認めてもらった。

事例4日々の介助で疲労が蓄積 → 首、肩、腕にしびれ、こり

    盲学校の幼稚部で肢体不自由と知的障害を併せ持っている幼児を担当しています。介助としては移動(車椅子、ハイハイ、つかまり立ち、手引き歩行)とトイレ(オムツ使用)、食事(ミキサー食)そして遊びがあります。5日間の仕事のあとの休日は、ほとんどゴロ寝状態で一日休まないと次の週は仕事になりません。主に首、肩、腕に重さや、時としてしびれ(軽い)を感じます。もともと肩こりは持っていましたが、こんなにパンパンにはる状態はありませんでした。あんまをしてもらうと、背中までこりがあることがわかります。

事例5給食介助で無理な姿勢 → 首、肩の強い痛み〜頸椎ヘルニア〜) 

    CP児の給食介助に1時間弱かかっていた。嚥下動作がうまくないため、左腕を常に児童の首の後ろにまわし、あごを介助し、自分の首や体をひねる状況の中で食事介助をしていた。当然、日々の指導中の無理な姿勢もあったと思う。ある日、昼休みを終えて児童のところへ行こうとしたら、首がまったく動かず(まわらず)肩の痛みもひどく、上半身がロボットのように。整形外科でレントゲンをとり、軽い頚椎ヘルニア、と言われ、マヒを治す注射を2本肩に打って、少し首が動くようになりました。以来、首には荷重をかけず、現在も知的部門に身をおいています。

事例6給食介助、移動介助で腰背中に負担 → 朝起きたら右上半身が動かなくなった

   児童の給食介助(1時間以上同じ姿勢)、移動介助などで、腰・背中に負担がかかり、ある朝起きたら右上半身が痛み、動かせなかった。通院。様子をみたがなかなか痛みがひかず、途中2週間ほど休む。その後も通院。2ヶ月近くたつが、違和感、疲れがとれない状態。現在も継続中。

【知的障害課程で】

事例7歩行時の介助などで不良姿勢 → 腰痛で起きあがれなくなった〜椎間板ヘルニア〜

    知的障害の養護学校で、小学部低学年の児童の担任になった。かがむ姿勢がおおいこと、歩行時の時に不自然な姿勢で手をつなぐ(小さいため)、急な動きへの対応、体重40kg以上ある児童の介助など様々な要因が重なり、いつも腰に疲労と痛みを感じていた。ある朝、起床時に痛みでおきあがれなくなった。椎間板ヘルニアで入院治療したが、腰の痛みは完全に治らずいつも重みを感じている。

事例8プール指導で身体の冷えと不良姿勢 → 腰が重い、腰痛

 小2児童のプールの介助で身体が冷え、腰が重い状態になった。(室内、水深120cmくらい)数日後、屋外小プールでの指導で中腰が続き、痛みとともに腰をまっすぐのばせなくなった。針治療をうけた。

事例9児童の手を制止することが続いて → 肩、首筋がパンパンにはる

    知的障害養護学校の小学部で、他傷行為が多い児童の担任となった。気温の変化や他の児童の泣き声などがきっかけで、日常的にそばにいる人に対してひっかきやかみつきなどの行動がみられ、児童の手を制止することが続き、2ヶ月ほどで腱鞘炎になり、現在は肩、首筋までパンパンにはっている状態が続いている。その児童を担当する週になると、症状が悪化する。

事例10両腕に力をいれて生徒を度々制止 → 右腕が上がらない〜「五十肩」〜

    4月から担任になったクラスの生徒の中に、耐えがたい程の大声をひんぱんに発する生徒がおり、それを聞くと他の生徒で不安定になり、とびかかっていく生徒がいる。それを止めようとすると激しく抵抗してくるので、どうしても自分が両腕に力を入れて止める状況が、度々あった。6月頃には、右腕が上がらなくなり、駐車券もとれなくなった。夏休みに受診し、五十肩と診断され、少しずつ上がるようになってきている。整体にも通ったが、現在は通院せず、主に2回ほど水泳をして、腕を動かすようにしている。

事例11左側の抱っこばかりを要求する児童 → 首、肩、腕の激痛

    知的障害児の養護学校で、介助者の左側を好んで抱っこを要求してくる児童の担当となった。児童とはいえ、体格的に大きく、一日の大半が左側上肢に負担がかかる状態が連続した。次第に首が動かせなくなり、頸肩腕の激痛が続いた。当時、頸肩腕症候群と診断されたが、現在も冬になると痛みが始まる。状態については、管理職に報告したにもかかわらず、この件については、公務災害の申請について管理職からアドバイスもなかったので、知ることができなかった。

事例12走り出した生徒に引きずられ転倒 → 一時は軽快したが後で鈍痛・しびれ〜頸椎ヘルニア〜

    H4年、突然走り出した生徒に引きずられる形で転倒(左を下に)。翌日から左手に鈍痛があり、整形外科を受診。主として左肘を温治療(パラフィン浴)。2〜3ヶ月治療したがすっきりしないまま軽快し治療終了。 H6年、左手に鈍痛・しびれがみられ、様子を観察するも改善せず重傷化し、動いていてもしびれ、冷感。H7年、別の整形外科を受診X―P頸椎7.8.左後にツブレ、ヘルニアの診断。H17年、左手にしびれ再発し、ロキソニン、けん引を再開し、現在も続行。

Q.腰痛・頸肩腕障害はなぜ発生するのですか?


A.腰痛・頸肩腕障害の発生の原因には、次のようなことがあります

(05年7月26日 サマースクール 滋賀医科大助教授 垰田和史氏講演 『身体をこわさない障害児学校での働き方』より)

「腰痛」「頸肩腕障害」の発生要因

 腰−曲げる、ひねる、そる、しゃがむ等

 頸肩腕−抱く、引っ張る、しぼる、支える等(腕だけで5キロの重さ。それを支えるだけでも大変)

不良姿勢が身体に負担

 直立が一番楽な姿勢。障害児学校の教員がとっているほとんどの姿勢が、不良姿勢。

 体に近いところで持ち上げると負担は少ないが、腕を伸ばしたり、体から離して介助したりすると、負担が大きい。

血流の悪さからくる「こり」

 筋肉は血流が流れ込んで出て行く仕組み。ラジオ体操のような腕の動かし方なら、必要な血液量が入ってきて、出て行く。バケツを体から放して片手で持つような使い方をしていると、血液が必要なだけ入ってこない。肢体不自由の子の介助や、軽度歩行障害で手を添えて介助して歩くような場合はそれにあたる。左側の手でずっと手をつないだり介助したりしていると、左側の肩や腕がこる。

疲れや睡眠不足が腰痛に影響

 他の職種から来た人が、腰痛を起こすのは5〜6月がピーク。8月は少ない。もう一つのピークが10月。5〜6月が、メンタルヘルスや疲れのピーク。2学期は、文化祭、体育祭、修学旅行など行事で残業が増え、睡眠時間が減る。ただ抱き上げるのが多いからといって腰痛になるわけでもない。睡眠時間の確保で腰痛は防げる。

「肩こり」はストレスからも

 頭は、首の周りの筋肉が支えている。頚椎は7つの骨で出来ているが、小指の先っぽほどの骨が頭にはまっているだけ。周りの筋肉をぐるりと切ってしまえば、頭はポロリと落ちてしまう。

僧帽筋はストレスがかかると、縮む。犬猫が散歩していて他の犬猫に会うと、毛が逆立ったり、背中が曲がったりする。僧帽筋が緊張している。何が起こるだろう、と新しいクラスや職場で緊張していると、45月はガチガチになり、6月ごろから体調が悪くなる。 



Q.腰痛・頸肩腕障害はどのように予防したらいいですか?

A.予防として次の5点があげられます。

(05年7月26日 サマースクール 

滋賀医科大助教授 垰田和史氏講演 『身体をこわさない障害児学校での働き方』より)

@介助方法の工夫

どうやって楽な方法で介助するか。

腰のむだまげ、むだひねり、持ち上げをどうやって減らすか。

垂直移動を減らす。水平移動を減らす。

10センチでも15センチでもどうやって減らすか。

A指導体制の工夫

同じ不良姿勢を同じ人がとり続けないように。

ローテーションを組む等、指導体制の工夫が必要。

B疲労の回復

5時間睡眠では腰痛は起きる。5時間をきっていると腰や背中が休まらない。

最低6時間、メンタルヘルスを考えるなら7時間を越えるのが良い。

寝ることは時間の無駄ではない。生きることの基本。

 
 C運動と体力づくり

腰痛・頸肩腕予防体操を毎日行うことで、一定の予防効果はある。

さらに、運動などで体力づくりができればよい。

しかし、睡眠不足や疲れている時に無理な運動は禁物。

D精神的な負担を減らす

みんなで話し合える職場づくりを。

趣味、楽しみを持つ。

Q.腰痛対策グッズを紹介してください。

A. 神障教組労安委員会では、年に1度(毎年1学期)、滋賀医科大学峠田(たおだ)先生の推薦する腰痛対策グッズを紹介・販売しています。職場での宣伝は、職員の予防意識を高める効果もあります。ぜひご活用ください。

     腰痛予防ベルト

腹筋、背筋が弱らない。ベルトをしているほうが負担がかからない。

     ヒザあてつきズボン

ヒザ立ち姿勢は負担が少ない。ひざを付けられるならつけたほうがよい。
ヘルパーさんなどもこのズボンを使い始めている。スウェーデンの養護学校では、これをはいている。日本向けの生地にしたもの

     補助パッド

車のシートなどにひくと、圧力分散になる。低反発のものとは違う。低反発クッションは圧力がかからないが、体の形になってしまうので、おしりの褥創は治るが圧力に弱い肛門付近が痔になってしまったりすることがある。